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『クラッシャージョウ』(1983)

松竹と組んでTVシリーズを再編集した『機動戦士ガンダム』で映画界に進出したサンライズの、初めての劇場用完全新作アニメーションがこの『クラッシャージョウ』ということになります。
それ以前の『機動戦士ガンダムIII/めぐりあい宇宙篇』や、特に『伝説巨神イデオン/発動篇』のように実質的には劇場用作品と呼んでも差し支えないような作品もありましたが、企画段階から劇場用映画として作られたのはこれが最初。
製作のサンライズにとってもターニング・ポイントになった作品だと思います。
またこの作品が公開された1983年3月は、角川映画が満を持して(?)『幻魔大戦』を引っさげてアニメ映画界に殴り込みをかけ、片やアニメブームの牽引車だった『宇宙戦艦ヤマト』が『完結編』でファイナルを迎えていますので、日本の映画史的にもターニング・ポイントだった時期だとも言えます。

『クラッシャージョウ』(1983)_e0033570_22522319.jpgさてこの<クラッシャージョウ>、言わずと知れた高千穂遥の書いた人気SFシリーズの映画化作品です。
無名作家のデビュー作、しかも日本ではこれまで馴染みの薄かったスペース・オペラというジャンルながら、驚異的な売上を見せたこのシリーズ、その魅力は勿論キャラクター造型やストーリーの組み立てにもありますが、何といってもイラストに『勇者ライディーン』などで知られるアニメーターの安彦良和を起用したことが大きな要因だったと思います。

シリーズ開巻は正にアニメブームの勃興期、一般的にはやはり無名の存在ながら、既に熱狂的なファンから注目を集めていた安彦良和の絵の力は、その売上に大いに貢献したはずです。
そして、読みやすい文体に目を引くイラストという組み合わせは、正に現在にまで続くライトノベルというジャンルの開拓者と呼べる存在。
朝日ソノラマがこの<ジョウ>のシリーズと、そして『宇宙戦艦ヤマト』のノベライズ版を刊行しなかったならば、今日のライトノベル・ブームはなかったか、あったとしても幾分か遅く、しかも違った形になっていた可能性は高いと思います。

この映画版では、アニメーターを本業とする安彦良和が本領を発揮し、脚本も原作者・高千穂遥と共同で執筆し、キャラクターのデザインや作画全体も含めて監督をしています。
そして”絵”の面を全面的に安彦監督に任せた高千穂遥は”音”の面には力を注ぎ、音楽担当者に前田憲男を担ぎ出し、キャストにはベテランをずらりと並べるこだわり振りを見せています。
そして主役二人には若手や新人を大胆に起用してもいます。

ストーリー自体は映画用のオリジナル、かつ番外編と規定されていますので、既に出会っているはずの人物と今回が初対面だったり、或いは死んでしまっている人物が活躍したりということもありますし、設定が変更になっている箇所もいくつかありますが、原作のファンにも、原作を読んだことのない人にも楽しめる内容となっています。
興行的には『幻魔大戦』や『ファイナルヤマト』の後塵を拝した感がありましたが、アニメファンからの支持は一番高かったようです。

今回は公開以来、四半世紀ぶりに見直したのですが(いや待てよ、一度ビデオで観てるかな)、意外なほど細部まで覚えておりましてビックリ。
あんまり意識していなかったのですが、思いの外気に入っていたようです。
今やアニメーターではなくマンガ家として活躍している安彦良和の、最近の絵柄には少々違和感を抱いているのですが、この頃の絵柄には今でも大きな魅力を感じます。

後にこの安彦キャラのままで2本のOVA作品が作られましたが、それ以前に映画のパート2の企画が立てられていたこともあります。
結局は立ち消えになったようですが、その際には高千穂遥がキャラクター・デザイナーに大友克洋を指名していたのだとか。
『幻魔大戦』でもキャラクター・デザイナーに大友克洋が起用され、そのデザインにはなかなか馴染めませんでしたが、大友キャラの<クラッシャージョウ>は正直見たくないですねえ。
ボツになって良かったな、と思っております。

もっともこの劇場版には、お遊びとして吾妻ひでお、いがらしゆみこ、いしいひさいち、高野文子、高橋留美子、竹宮恵子、とりみき、鳥山明、細野不二彦、御厨さと美、和田慎二といった錚々たる面々に並んで大友克洋もワンポイントのゲストキャラを提供しておりますが。
それに同じ世界観を有する『ダーティペア』のユリとケイのコンビもカメオ出演しているなど、楽屋落ちネタが色々あるのも楽しめるのですが、やや悪乗りしすぎの感も無きにしも非ず…。
Commented by よろづ屋TOM at 2008-04-21 02:58 x
(!o!)おおお〜。エライもんを出してこられましたね。
友達とふたりで行った映画だったのに、キャライラスト入り四枚綴りの前売りが欲しくて余分に買うハメになりましたよ。
いまなら絶対アルフィンのフィギュアも売ってたでしょうね。それにメカ!さすがスタジオぬえが総力を結集しただけのことはありました。今ではそうした専門集団みたいなスタジオって多いですが、元祖はやはり“ぬえ”でしょうねえ。加藤直之さんの絵も大好きでした。今考えてもすごいチームでしたねえ。

ちなみに私も大友克洋は苦手です。没バンザイ。はっきり言わせてもらえば、彼のプリレコ式アニメのクチパクは絶対変です。(王様の耳はロバの耳!)
そういえば当時はOVAも含めて“イチビリ”な作品多かったですねえ。当時ぬえのコミック部門担当だった細野不二彦氏の作品『あどりぶシネ倶楽部』の中で主人公の口を借りてそのことに厳しく言及しています。彼も眉をひそめていた一人だったのでしょう。

しかしあれほどの人気を誇った割には、今や知ってる人もほとんどいないのが残念。
Commented by はぎお at 2008-04-21 22:58 x
こんばんは。
懐かしいですね~私も映画館に見に行った口です(笑)そんなに知らずに見たのに、とても楽しめました。未だに原作は読んでいませんが、今考えても上手くまとまっていたのでないかと・・・音楽は前田憲男さんだったんですね。
そういえば、いろんなキャラが登場してました。ダーティペア、これも懐かしいなぁ。
Commented by odin2099 at 2008-04-21 22:59
そんな大それたものじゃありません(苦笑)。
『宇宙戦艦ヤマト』から順番に、大体公開順や当時観た順に観直しているだけなのです。
まだ先は長いなぁ。どこまでやるかは未定ですが。

そういや松竹&サンライズ作品は、綴り物の前売券、多かったですね。
僕自身はどうせ喧嘩になるだろうと、通常の前売券しか買いませんでしたが(笑)。

加藤直之さんの絵は好きでしたね。
出来れば<グイン・サーガ>は全巻加藤さんで行って欲しかったです・・・。
Commented by odin2099 at 2008-04-21 23:02
前田憲男さんがこの手の作品を手掛けるのは珍しいですね。
他には円谷プロ製作のTVドラマ『スターウルフ』ぐらいでしょうか。
高千穂さんはどこから前田さんの起用を思いついたのやら。

原作は数年前に改訂版が出たのですが、ソノラマ文庫(というより朝日ソノラマ自体)がなくなっちゃったせいもあって、今は入手困難になってしまいました。
どこかから再発売しないかなぁ・・・。
Commented by crann at 2008-04-24 22:38
エクスカリバーさん、こんばんは!

私、ジョウに恋していたクチです(笑)公然のヒミツでした。
もちろん映画にも行ったし、後に高千穂遥に会ったときにジョウの続きどうなったんだと初対面で突っ込み(爆)ドン引きされました(笑)
ですが、映画を覚えていないです、あまり。エクスカリバーさんの記憶力はすごいですよね、毎度尊敬します!
大友キャラのジョウは私も見たくないです・・・
ジョウの版権をカ○カワあたりで引き継ぎそうですけどね。
Commented by odin2099 at 2008-04-24 23:24
>crannさん

いらっしゃいませ~。僕は「ジョウ」よりも「ダーティペア」の方が好きでしたね(笑)。
「運び屋サム」も読みましたけど、ちょっと違うかなぁという感じでした。
実は映画を観に行った時はまだ原作を読んでいなくて、後で読んで「あれ?」と思うところもあったのですが(コワルスキー大佐の扱いとか)、ノベライズ版の「虹色の地獄」を読んでからは自分を納得させました(苦笑)。
記憶力は大したことないんですが、それだけ自分にとってインパクトが強かったということなんでしょうね。

角川文庫は実際に一度、「ジョウ」の発売告知を出したことがあります。
何年前だったかなぁ・・・10年か、20年は前じゃなかったと思いますが。その後でソノラマ文庫の改訂版が出たので、結構ビックリした記憶があります。
その際にジョウの母親の名前が「ユリア」から「ユリ」に改められるという、実しやかな噂も流れておりましたが・・・。
また「ダーティペア」は1巻だけ角川文庫に収録されていましたけれど、こちらはまだまだ早川が手放さないでしょうね。
Commented by crann at 2008-04-25 18:59
ダーティペア初出のSFマガジン増刊号がまだどこかにあるはずです。
グインサーガの外伝「七人の魔道師」ものっていて、野阿梓ものっていたはずの、いまから思うとものすごい豪華版でした。
ダーティペアが出たとき、このユリは=ユリアでジョウの母親!?と当時からいろめきたったファンがたくさんいましたよ(笑)
ユリアが死んだのは「産後の肥立ちが悪くて・・・」でしたっけ。
私の母は「こんなはるか未来でもやっぱりお産は大変なのねえ」と感想をのべておりました。(母もファンでした 笑)
角川の発売告知だけで出なかったんですよね。
もしや安彦さんの絵じゃなくなる予定だったのかもしれませんね。
Commented by odin2099 at 2008-04-25 22:25
ジョウの母がユリアで、ダーティペアがユリ、何か関係がありそうですが、高千穂遥は「偶然でしょ」の一言で片付けてました(笑)。
でもその直後に角川文庫入りするという話があり、なおかつ『ドルロイの嵐』が発表されたりしたのは意味深でした。
タロスとバードが恋のさや当てを演じた女性はケイですし、本名がユリアで通称がユリ、というのは充分ありうると思うんですけどねー。

角川文庫入りの件は、広告が出たりということではなく、業界向けの出版案内に載っていたのです。
この出版案内、コミックや文庫本のものは本屋さんによっては店内に貼り出してるところも結構ありまして、毎月毎月欠かさずチェックしていたりします(苦笑)。

それにしても『ダーティペアの大冒険』に『七人の魔道師』ですかぁ・・・。
何だかパワーを感じさせるラインナップですなぁ。
by odin2099 | 2008-04-20 22:57 |  映画感想<カ行> | Trackback | Comments(8)

「きのふの是はけふの非なるわが瞬間の感触を、筆に写してたれにか見せん」(森鴎外『舞姫』) HNは”Excalibur(エクスカリバー)”


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