『未知との遭遇<特別編>』(1980)
2008年 06月 15日
<ディレクターズ・カット版>をはじめとする、「完成品(公開作品)」とは別ヴァージョンを公開する走りとなったのがこの作品。以上、「しねま宝島」より引用。
その成立過程には諸説あり、「完成作」に不満を持っていたスピルバーグが撮り直しを申し出たところ、マザーシップ内部の描写を付け加えることを条件に承諾が下りたというものや、続編の打診を受けたスピルバーグがこれを断り、代りに「その後の」ロイを追加撮影してお茶を濁したというものなど様々。
何れにせよ「マザーシップの中へ入ったロイ・ニアリーは何を見たのか」がセールスポイントであることは間違いないのだが、結果を言えば拍子抜けではあった。
未知なるテクノロジーをどのように画面に描き出してくれるのかという期待とは裏腹に、その内部はただの光の洪水。
これはこれで「幻想的」という捉え方も出来るだろうが、このシーンの為だけにお金を払わせるのは少々酷と言うものだろう。
それよりも両ヴァージョンを見比べると、シーンの差替えや削除が予想以上に多いことに気付かされる。
まず主人公であるロイの登場シーンからして差替えられ(家族の紹介シーンも全くの別物だ)、ロイの職場での人間関係の描写もほぼ全面的にオミット。
妻や子どもたちとの触れ合いシーンもかなりドライなものになり、結果ロイは孤立した男というイメージが強調されることになった。
平凡な人間が徐々に狂気に取りつかれ家族から疎外されていくというロイの絶望感を出しているオリジナル版に対し、切り詰めたおかげでストーリー運びのテンポが良くなったの分、人間ドラマが希薄になっているのが<特別編>だと言える(勿論、途中でだれないという利点もある)。
サスペンスを盛り上げる効果もあるので、一概にどちらがより優れているとは言い難いが、わざわざ手を加えるほどのものでもないだろう。
完成作品のランニング・タイムも、実はオリジナル版より短い。
「追加撮影を敢行し未発表シーンを満載した特別編集版」という宣伝イメージからすると意外だが、このあたりからスピルバーグの演出意図を探るのも面白い。
目につく追加シーンとしてはマザーシップの内部以外に、砂漠で発見された貨物船のシーンがある。
これはUFOの超常現象を強調するために付け加えられたものだが、ビジュアル面でのインパクトはともかく「彼ら」を表現する上ではこれといった効果は上げていない。
元々この作品での「彼ら」の表現は一貫していないのだ。
バリー少年を執拗に追いまわして、挙句の果てに泣き叫ぶ母親の手から連れ去る「彼ら」と、ラストで友好的な微笑を見せる「彼ら」が同じ存在であるとはちょっと考えづらい。
UFOや宇宙人に関する目撃、体験情報には比較的友好的なものと、非友好的なもの(UFO内部へ連れて行かれ、何らかの人体実験を施された等々)が両立しているが、その両方を取り入れようとした結果の混乱ではないかと思うのだが(これを、単純に「宇宙人には善悪二勢力あるのだ」とせずに、「人知を越えた存在なのだと表現しているのは素晴らしい」と解釈する向きもあるようだが、それには納得しかねる)。
ただそれでもこの作品が「興味深い一本」であることは間違いなく、色褪せていないことも評価に値する。
またこの<特別編>公開以降オリジナル版は事実上封印され、殆どの観客にとって『未知との遭遇』とはこの<特別編>であったことも付け加えておく(数年前にようやくビデオが発売され両バージョンが市場に共存するようになったが、今でもTVなどで見られるのは<特別編>である。更に近年更なる改訂版が登場。今後はそちらがスタンダードになる可能性も強い)。
【CLOSE ENCOUNTERS OF THE THIRD KIND】 1977年/COL/135分/日本公開1978年2月 監督:スティーヴン・スピルバーグ 出演:リチャード・ドレイファス、フランソワ・トリュフォー、テリー・ガー、メリンダ・ディロン、ボブ・バラバン... more