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『世紀末救世主伝説 北斗の拳』(1986)

TVシリーズの放送中に別スタッフによって製作された劇場用新作。
物語も単なる総集編ではなく、TVアニメ版で云うところの第二部までを一度バラしてから再構成したものになっており、ケンシロウとシンが激突し、ユリアがシンに連れ去られ、ケンは胸に七つの傷を負わされる発端部分から、リンやバットとの出会い、レイとの邂逅、ジャギの成敗、そしてクライマックスの世紀末覇者”拳王”を標榜するラオウとの対決までを一気に見せるものになっている。

原作やTVアニメ版との大きな違いは、ユリアが死なないこと(尤も原作でも、後に生きていたという展開を迎えるのだが)。
ケンとシンの最終対決の前に既にラオウが動いており、ユリアはラオウの手に落ち、それがケンとラオウが対決する理由にもなっているのだが、その為かマミアの登場は見送られ、他にも時間の都合だろうがトキやユダ、アミバといった代表的なキャラクターも割愛されている(北斗神拳の伝承者候補はケンとラオウ、ジャギの3人だけで、南斗聖拳の使い手として登場するのはシンとレイのみ)。
またリンの比重が特に大きなものになっており、サブタイトルにある”救世主”とはケンではなく、リンのことだと規定されている。

『世紀末救世主伝説 北斗の拳』(1986)_e0033570_85393.jpg劇場版ならではの特色としては、「アニメ初のスプラッタームーヴィー」を謳ったことだろうか。
北斗神拳や南斗聖拳によって切り刻まれ、体内から破壊される描写には拍車がかかり、TVの制約から自由になったスタッフの暴走振りが窺える。ただ予告編やスチール写真に比べると、実際のフィルムには透過光処理が施され、さほど不快感を与えないような工夫はされている。どこかでブレーキが必要だとの判断がなされたものと思われる。
別編成とはいえ、スタッフにはTV版に参加していた者も多く、イメージは踏襲。TVと比べての違和感はなく、むしろ劇場用にスケールアップした、その差異を楽しむべきだろう。

キャストも概ねTV版を踏襲したものになっており、ケン役の神谷明、ユリアの山本百合子、シンの古川登志夫、ラオウの内海賢二、レイの塩沢兼人、リンの鈴木冨子とバットの鈴木みえ(一龍斎貞友)、アイリの安藤ありさ等はそのままスライド。
70年代の終わりから80年代初頭におけるアニメブームの中にあって、富山敬や井上真樹夫と並んで”御三家”と称された人気声優の神谷明は、意外にもこれが単独での初主演作(<東映まんがまつり>は除く)になるはずだ。

ただ、音楽だけは完全に別物で、TV版の青木望に代わって服部克久が登板。こちらはTV版に馴染んだ人には違和感があるだろう。
主題歌もクリスタル・キングではなく、KODOMO BAND。こちらは後にTV版の主題歌にも起用されている(楽曲は別のもの)。
服部克久がこの手の作品を手掛けるのは珍しいと思うが、本人には会心の作だったようで、「リンのテーマ」として作られたメロディはその後自身のオリジナルアルバムにも流用、今でもイージー・リスニングの定番曲としてラジオ番組や有線放送でも頻繁に流れている。

原作が未完の段階での映画化ということから、物語が中途で終らざるを得なかったのが残念で、是非とも続編を望みたいところだったが、そこまでの興行成績は残せなかったのか、実現はしなかった。
ただそれでも、近年原作を再構成してリメイクされた作品群に比べると、こちらの作品に軍配が上がるだろう。
『北斗の拳』ファンには一度は見ておいて欲しい作品だが、当時ビデオやLDが発売されていたものの既に廃盤であり、半ば幻の作品状態に。
ところがようやくDVD化が決まり、近々リリースされるので広くお勧めしたいところである。

なお、ビデオやLDで発売されているヴァージョンは、実は劇場公開時と比べると短縮された再編集版になってしまっている。今回のDVDにオリジナル公開版が収録されることを望んで止まない。
Tracked from あなたの幸せ力を引き出す.. at 2016-12-29 15:42
タイトル : 「世紀末救世主伝説 北斗の拳(1986)」自分の成長を実..
確実に自分が変わったことを実感する。 それは成長を実感するということです。 大きなインパクトを伴って明確に それを感じられるような機会というのは そうそう簡単に訪れるものではないですよね? つい先日、わたしは自分が 成長していたことを実感を持って 具体的…... more
Commented by マイケル村田 at 2017-07-29 14:38 x
1986年の東映動画(東映アニメーション)のアニメ映画と言えば「北斗の拳」だけではありません。それが…、「トランスフォーマー ザ・ムービー」! 初代と2010を繋ぐストーリーとして作られた日米合作のアニメ映画作品。スタッフやキャストだけで見ても…、越智一裕、角田紘一、佐々門信芳、兼森義則、長崎重信、ピーター・チョン、ネルソン・シン、森下孝三、ロバート・スタック、ジャド・ネルソン、ライオネル・スタンダー、レナード・ニモイ、オーソン・ウェルズ等と超豪華な顔ぶれ…。TV版には描かれる事が無かったコンボイ、プロール、アイアンハイド、ラチェット、プロール、ゴング、ホイルジャック、チャージャー等を初めとする第1シーズン/第2シーズン(初代TF)に登場したサイバトロン戦士たちが葬られてしまいます。もちろん、本作の制作資金として40億円と言う贅沢な資金が提供されておりましたが、全額使い切れず、余った制作資金に関しては返金していたとの事。海外では1986年に公開されて話題を呼んでいたものの、日本国内においては1987年夏公開予定だったものの、諸事情絡みで89年のチャリティー上映やビデオソフトのみとか…。

しかし何であれ、あの「トランスフォーマー ザ・ムービー」が日本国内では上映されなかった理由が謎だなぁ…。
Commented by odin2099 at 2017-07-30 19:32
> マイケル村田さん

仮に公開に踏み切ったとしても、どれだけの規模の劇場を確保できたやら。
単独公開も難しいし、かといって<まんがまつり>枠では長すぎますしね。
玩具は売れてたようですし、リアルロボット全盛期にあってアニメ版もマニア層はついてましたが、どこまで一般的に知名度があったやら。
色々と決め手に欠いたのだと思われます。
by odin2099 | 2008-09-21 08:06 |  映画感想<サ行> | Trackback(1) | Comments(2)

「きのふの是はけふの非なるわが瞬間の感触を、筆に写してたれにか見せん」(森鴎外『舞姫』) HNは”Excalibur(エクスカリバー)”


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