『扉は閉ざされたまま』 石持浅海

こういったタイプのミステリーを「倒叙ミステリー」と呼ぶんだそうです。
先ず殺人ありき。
読者には最初に、犯人が誰で、どうやって殺したのかがわかっています。
後は犯行を隠匿しようとした犯人と、それを見破ろうとする探偵役との知恵比べがメインとなります。

物語は大学時代のサークル仲間が集まって、同窓会が開かれるところから始まります。
メンバーは伏見亮輔、伏見と同期の安東章吾、一学年先輩の上田五月、一学年後輩の新山和宏と大倉礼子、二学年後輩の石丸孝平、そして同窓生ではないものの、当時から付き合いのあった礼子の妹・碓氷優佳の７人。
舞台となるのは世田谷郊外にあるペンションで、元は安東の祖父が住んでいた豪邸を、その死後に改装したという建物で、由緒ある”豪邸”というのもキーポイントになってきます。

そこで伏見は、後輩の新山を殺害します。完全なる密室殺人。
夕方自室に引き揚げた後、食事の時間になっても降りてこない彼を、当初は皆が疲れて寝ているものだと思って放っておくのですが、段々と異常に気付いていきます。ただ眠っているだけなのか、それとも・・・？
伏見はさりげなく場を支配し、皆を自らのシナリオ通りの方向へ導こうとするのですが、ただ一人、彼の予想を越えた行動を起こしたのが碓氷優佳。かつて二人は互いに惹かれあうものを感じていたのですが・・・・・・。

似たもの同士でありながら、そうであるが故に決定的に違うポイントから破局してしまった伏見と優佳。
その二人の微妙な違いがわかりづらいのと、伏見が新山を殺害した動機が些か弱いこと。更に伏見の描いたシナリオの肝の部分が、あまり一般に知られていることではない点などに若干の引っ掛かりを感じてしまいましたが、一見”妹キャラ”風でありながら、実はかなり強かな優佳というヒロインの魅力と相俟って一気に読んでしまいました。
結末をぼかして、今後の二人に関する想像の余地を残しているのも上手いなとは思いましたが、彼女、シリーズ・キャラクターになっているのですねぇ。
第二作も続けて読んでみたいと思っています。