『催眠』 松岡圭祐
2008年 11月 12日

先に映画を観て、その後でこの小説を読んだ時にはそのあまりのギャップに驚いたものである。一体どこをどう捻ると、あんなストーリーになるのだろうか?
なにせこの物語にはホラー的要素は皆無。
多少ミステリー的な要素はあるが、それは由香が何故多重人格になってしまったのかという謎解きと、後は彼女が嫌疑を掛けられている横領事件に纏わるものであり、物語そのものは心の病を抱えた女性と、その彼女を助けたいという青年を描いているだけなのだ。
催眠「術」というとあたかも万能の魔法のようなイメージを持ってしまうが、この物語の中では、勿論適度なフィクションも交えながらではあるが、著者の実体験に基づいていると思われるリアリティ溢れる描写で、実際の催眠「療法」とはそんな胡散臭いものではないのだと認識を改めさせてくれる。
一応”ミステリー小説”というジャンル分けがなされているが、どちらかというと”癒し系”とでも呼べる内容。ダニエル・キイスの『24人のビリー・ミリガン』だとか、ああいう作品が好きな人なら楽しめるかと思う。
また、違った意味で映画版しか知らない人も、想像を越えたストーリー展開が待っているという点で楽しめるのではなかろうか。
ところで今回読み返したのは、小学館文庫版。
オリジナルは同じ小学館からハードカバーで出ていて、文庫版も何版目からかは修正が入っているらしいが、基本的には同じものかと思う。
というのはこの『催眠』(に限らず、この作者の作品は)、幾つかのヴァージョン違いがあるからで、次に新書版で出た<改訂補強版>では映画版や、続編として企画された『千里眼』シリーズとの調整が計られている。
その結果、キャラクター描写を含めて細かい設定が随分と変更になり、そこまでやるかと驚きかつ呆れたものだったが、現在は角川文庫に移籍の際に再度手を加えた<完全版>が刊行されているのだ。
これがどうやら<最終版>(今度こそ!)らしいのだが、まだ未読。そのうち読み比べてみようと思っている。

ある嵐の晩、ニセ催眠術師実相時則之の前に突然現れた色白の女。稲光が走り雷鳴がとどろく中、突如女は異様にかん高い声で笑い出し、自分は宇宙人だと叫び始めた…。肝を潰す実相時の前で、その女が見せた異常な能力とは?そして女の前に現れた東京カウンセリング心理セン...... more

『催眠』by松岡圭祐 ある嵐の晩、ニセ催眠術師・実相寺則之の前に突然現れた色白の女。稲光が走り雷鳴がとどろく中、突如女は異様にかん高い声で笑い出し、自分は宇宙人だと叫び始めた──肝を潰す実相皿..... more

けど、具体的にどれから読んでいいのかよくわからなくて躊躇していたんですよ。
とりあえず、「催眠」→「千里眼」シリーズと続くわけですね。
とはいえ、「千里眼」もいっぱいあってこれまたどれから・・・(^^;
お話は『催眠』が発端で、その後に『千里眼』が来てシリーズ化されてるから、その順番に読むのが良いでしょうね。
その合間に『催眠』の前日譚や後日談を読んだり、また途中で『マジシャン』や『蒼い瞳とニュアージュ』シリーズとドッキングするから、その前にこれらの作品を読む、という感じかな。
ヴァージョン違いは、とりあえず作者は「一番新しい版で読んで欲しい」と言ってるようなので、これから読み始めるなら角川文庫版で良いんじゃないかと思います。
今角川文庫では『千里眼』が2シリーズ出てますけど、時系列的には<クラシック>シリーズの後に新シリーズが来るはず。
ほぼ全面改稿されてるらしい<クラシック>シリーズが、全部出揃った(追いついた)頃に読み出すのがオススメかな。
それにしてもこの人の刊行ペースは凄いものがあります。
一頃の栗本薫や平井和正を彷彿とさせるものが・・・。