『禁愛』 牧村僚
2008年 12月 28日
所謂”官能小説”です。
ここでは”性愛小説”なんて肩書きが付けられていますけれど、暇つぶしというか気分転換というか、今までだったら手を出さなかったジャンルの小説にも何だか興味が湧いてきました。
これまでこの手のジャンルの作品は、たまたま手にした週刊誌などに載っている連載の一回分を、前後のお話やキャラクター設定など何も知らずに拾い読みする程度だったんですけれど、まとまった一本のお話としてはどんなものなのかなぁと思ってました。なんせ連載だと、毎回毎回見せ場(ではなく「読ませどころ」とでも言うんですかね)があるわけですが、通しで読んだ場合に破綻しないのかなあ、なんて考えていたもんです。もっともこの作品は書下ろしらしいので、構成という点では比較出来ないかもしれませんが。
「新宿歌舞伎町で探偵事務所を開いている北川雅之は、好みの女性依頼人の身体もいただいてしまうのが常だ。だが、心から愛する女性は、義姉・智世だけだった。浮気調査のターゲットとして、大学時代の同期生・祐子と偶然再会したことから、北川の禁断愛に変化が生まれる。」
――というのがカバーに書かれている粗筋ですが、ようするにここでいう「禁愛」とは義理とはいえ姉と弟の関係のことですね。
しかし主人公は34歳、姉は40歳という設定だと、”ファンタジー”としては幾分か無理があるような気もします。しかもお話のキーパーソンは学生時代の同級生だった女性のほう。最後は主人公にとってハッピーな結末を迎えるのはお約束ですが、結局はそれも元同級生の掌で踊らされていたという感じなので、物語の構造だけ見ればかなりのブラック・コメディかも知れません。
まぁ”長編”とは銘打っているもののそれほどの長さがあるわけじゃないので、ちょっとした捻りくらいないとお話が締まらないというのはあるでしょうけど。
それにしてもこの手のジャンル本、初めて本格的に読みましたけど、すごく読みやすいですね。
サラリーマンが手軽に現実逃避出来るというのも必要条件でしょうから、読みにくかったら誰も手に取らないでしょうけれども、もうポイント、ポイントを予め設定し、あとはそこへ読者を運ぶだけ。一つのポイントが終れば次のポイントへ、という具合なので無駄がないんですね。こういうのはプロの技なんだろうなー。
ただそのポイントですが、ある程度の数を用意しなければ読者の興味を持続させられないということから、本筋にはあんまり関係ないものもあります。お話の作り方としては少しずつ引っ張り引っ張りで、クライマックスでドーン!という持って行き方もあるでしょうが、この手のジャンルにはその手法は適さないのでしょう。そういう点では、通しで読むとやっぱり行き当たりばったりな面があるのは仕方ないんでしょうね。
ちなみにこの本、以前は村井一馬名義で『禁愛 タブー』と題されて刊行されていたこともあったようです。