『吸血鬼ドラキュラ』 菊地秀行/B・ストーカー:原作
2009年 02月 19日
その中にはブラム・ストーカーの原作を忠実に再現したという触れ込みの作品や、ドラキュラとは名ばかりのチンケな吸血鬼が出てくるだけの作品もあったけれども、原典であるストーカーの小説は未読だ。
実は創元推理文庫から出ている翻訳本は持っている。ただその分厚さや読みにくそうな文体からずーっと手を付けずにいるのだ。
オリジナルのお話はどうなのかは気になるけれど、なかなか原典版は読む気にならない。かといって中途半端な子ども向けのダイジェスト版にも抵抗があったのだけれども、そんな時に見つけたのがこの本。
これも<痛快 世界の冒険文学>の一冊として出版されていたものの文庫化だけれども、執筆者がホラー作家の菊地秀行なのである。

自慢じゃないけど『魔界都市<新宿>』も『魔界医師メフィスト』も『吸血鬼ハンターD』も『エイリアン秘宝街』も『妖獣都市』も、ぜーんぜん読んだことがない。
「いつか読まなきゃいけない作家リスト」の上位には20年以上前から載ってはいるんだが・・・(あ、そういえば『幻夢戦記レダ』のノベライズは読んでるんだ。あれも菊地秀行作品ってことになるのかな)。
菊地秀行はクリストファー・リーがドラキュラ伯爵、ピーター・カッシングがヴァン・ヘルシングをそれぞれ演じ、テレンス・フィッシャーが監督したハマー映画の『吸血鬼ドラキュラ』を偏愛しているとのことだが、あれはホラー映画というよりもアクション映画、というのが自分が観た時の印象だった。
で、どうやら原典版はこの映画とはかなり異なる雰囲気の作品らしい。
そこで執筆に当たっては単なるリライトではなく、原典の香りは残しつつも映画の雰囲気を盛り込み、菊地流の味付けがふんだんに施された作品に仕上げた由。未読なので比較は出来ないが、少なくてもこの小説は波乱万丈の冒険活劇に近いものになっていて面白かった。
途中でヘルシングに対して、「ベーカー街に優秀な私立探偵がいるそうだが、教授の推論はそれに匹敵します」などという台詞が出てくるのも遊び心だろう。
しかしこうなると、原典版を読む日はますます遠退くなぁ・・・。
それはともかく、タイトルだけは有名な原作ありきでありながら映画の方が独り歩きした作品では『ターザン』、『三銃士』なんかもそうですよね。
『フランケンシュタインの怪物』とかもそうなんでしょうかね。『狼男』なんて“狼男アメリカン”しか知りませんけど。
『海底二万哩』なんて手を伸ばせば読めそうなのに、いまだにネモ船長がどんな人物像なのかよく解らない…こうして軒を貸して母屋を取られた作品ばかり集めて談じるのも面白いかも。
「名作」と呼ばれる作品は、是非子どものうちに触れさせないといけない、という意識が強いんでしょうか。
多分、幼稚園か小学生の頃に絵本版とか抄訳版をしこたま読まされた経験をお持ちの方は多いんじゃないかと思いますが、じゃあ完訳版を読んだ人がどれくらいいるかと言われると、かなり数が減るんじゃないでしょうか。
僕は『ロビンソン・クルーソー』なんかは絵本版でしか知りませんが、『ハイジ』とか『ガリバー旅行記』などは、”活字のちっちゃな”岩波少年文庫版で読んでますけど、あのシリーズも完訳版かと問われると微妙ですね。
ちなみに『三銃士』(というより『ダルタニャン物語』三部作)や『海底2万マイル』は完訳版を読んでますけど、『フランケンシュタイン』は読んだことないですね。
抄訳本は沢山出ていても、実は完訳版は出ていない、もしくは既に絶版状態というケースは少なくないようですし。