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『カーマロカ/将門異聞』 三雲岳斗

甲斐の国に奇妙な旅人たちが現れた。武人らしい大男、気品ある細面の美男子、それに高貴な身分の娘らしき女性の三人連れ。
乱髪の美丈夫は鬼王丸と名乗り、細面の優男は菅家に連なる景行、そして残るは異国の姫君である柊だと判明するが、彼らの前に将門を名乗る野伏の一団が襲い掛かる。

将門――天慶三年、朝廷に反旗を翻した平将門の乱は、従兄である平貞盛や、俵藤太こと藤原秀郷らによって鎮圧されたはずだった。
しかしその将門が生きているとの報に、朝廷は大いに揺れる。
その命を受け、不死身の僧兵、当代随一の陰陽師、それに貞盛率いる追討軍らが入り乱れて、甲斐の国へと歩を進めるのだが、その鬼王丸こそ、死んだと思われていた平将門その人だったのだ。

『カーマロカ/将門異聞』 三雲岳斗_e0033570_211726.jpgタイトルになっている「カーマロカ」とは「煉獄」。
「天国と地獄の間にあり、死後、魂の浄化が行われる場所」のことだそうだが、このタイトルとカバーイラストのせいでかなり損をしているように思える。
ライトノベルか、エロティックな要素を前面に出したバイオレンス小説のような印象を与えてしまいかねないし、そもそもどういう物語なのかがこれでは伝わってこないのだが、実際は”時代活劇”とでも呼べそうな力作なのである。

非業の死を遂げた歴史上の人物が、もし生きていたらという設定で書かれた小説は枚挙に暇がないが、この小説でも道半ばで散ったはずの将門が実は生き延びていたという設定で描かれている。
そのこと自体に目新しさはないが、ありえたかもしれない別の歴史を語っているのではなく、あくまでも我々の知る歴史の片隅にこのような一幕があったかも知れないというスタンスが貫かれており、結局は将門が死んでいても生きていても歴史は変わらない、その部分に逆にロマンを感じてしまう。

それに登場人物たちが個性的で、生き生きとしているのが良い。
戦う相手には鬼神と恐れられながらも、愛嬌のある顔立ちで人を惹きつけてやまない将門。
その将門に付き従う訳ありの青年、景行と、それにエキゾチックな異国の美女、柊。
将門を追って旅をする、その娘である夜叉姫。
将門の追手側に付くものの、同じまつろわぬ民の末として共感を覚えている甲賀一族の棟梁、望月三郎兼家。
そして将門と対照的な存在でありながら、実は根底には同じものをもつ貞盛…。

だが中でも一番興味深い存在なのが、父をも凌ぐ能力を持ち、それがゆえに周囲から孤立してしまっている賀茂保憲だろう。
実質的な主人公と言っても良いこの人物が、将門と対峙し、そして変わってゆく様がこの作品最大のハイライトだろう。

超人的な力を見せる将門や、相対する刺客たち。
テンポも良く、迫力あるアクション描写。
それに、一見摩訶不思議に見える特殊能力……。
作品全体のテイストとはそぐわない描写もないではないが、まずは一級の娯楽作、伝奇モノの快作だろう。
最後にさりげなく登場する安倍晴明も良い。

これは映像で観たいなあ。
Tracked from 個人的読書 at 2009-03-04 23:24
タイトル : カーマロカ―将門異聞
三雲 岳斗 カーマロカ―将門異聞  「カーマロカ」  三雲岳斗・著  双葉社・出版  『平将門外伝』  著者の三雲岳斗さんは、indi-bookの認識では、 「M.G.H.」で、 「M.G.H.」の記事へジャンプ 知られる作家さんで、どっちかというと、 ハードSFの... more
Commented by よろづ屋TOM at 2009-02-25 09:41
たしかにこれではサブタイトル見ない限りまったく興味示さないかも…絵は綺麗ですが。
将門って根強いファンを持ってるようですが、私自身が読まないせいか平安期の話ってどっちかというと時代小説でもマイナーな印象があるんですがどうでしょう?
だもんで、お恥ずかしい話ですが昔は将門も平家物語の一武将だと思ってたくらいでして…帝都物語で初めて「あれ?源平合戦とは系列が違う人?」と認識し、海音寺 潮五郎作のを読んだ次第で。
ところで映像化するとして、エクスカリバープロデューサーは俳優や監督に誰を起用します?
まあ今の日本の技術力ならアニメってのもかえってチャチにならなくてアリですねえ。
Commented by odin2099 at 2009-02-25 22:58
初めてきちんと観た大河ドラマが『風と雲と虹と』だったからか、将門や藤原純友には思い入れがあります。
だからといって、その時代に強いわけじゃないんですが。
その昔、『平家物語』と『源氏物語』は、どちらも源平の合戦を描いた戦記モノだと思っていたくらいだし(爆)。

映像化するとなると・・・そうですねぇ。
もし映画ならば大々的にオーディションを行って新人を発掘したいとこですが、予算やスケジュールが限られてるTVドラマだったとするならば、将門役には消去法で(?)阿部寛ってとこでしょうか。
でかくて強くて人懐っこいとなると、なかなか他にはいなさそう。
保憲はそれこそ野村萬斎を持ってきたいとこですが、もうちょっと若い方が・・・。
兼家は、なんか青野武の声で喋りそうなイメージがあるんですが(笑)、役者さんとなると誰がいいかな。
これ読んだ人は、どんなイメージを抱いたのか興味があります。

監督は・・・これは全くわかりませんね。
Commented by よろづ屋TOM at 2009-02-26 00:04
やっぱり!阿部ちゃんですよね。でも謙信:寛というよりは『大帝の剣』の阿部ちゃんかしら。たしかにガタイのでかい俳優で貫禄とカリスマ性のある40歳くらいまでって難しいですねえ。

萬斎さんはやっぱし安部清明になってしまいそう…でも彼には違う平安期の人を演じて欲しいですしね。
実は振っておいてなんなんですが、私も監督となると全然ぴんと来ません。

ところで私も平家物語と源氏物語は対のものだと思ってたクチです。ヽ(´∀`*)ノ
正月特番で劇団ひとりの主演で『母恋ひの記』なんてやってましたが、もっと平安期を舞台にしたドラマってあってもよさそうですよね。知られてないキャラ多すぎるし。

私が初めて観た大河は『峠の群像』後半というめっちゃ遅いデビューでして。はるかに昔から観れたはずなのに損してますわ…
石坂浩二の謙信、『天と地と』を祖父が観てたのでぼーんやり覚えてる気もするんですがねえ。
Commented by odin2099 at 2009-02-27 21:20
他に良い人いないかなぁとは思いますが、皆さん線が細い。
強いてあげれば高嶋政宏か仲村トオルあたりですがイメージ遠いし、それならば高橋克典の方が近いかなぁ。
市川海老蔵では固すぎるし、やっぱり阿部ちゃんだろうなー。

保憲は妻夫木聡というのもアリかも。
市川染五郎でもおもしろい?
by odin2099 | 2009-02-24 21:01 | | Trackback(1) | Comments(4)

「きのふの是はけふの非なるわが瞬間の感触を、筆に写してたれにか見せん」(森鴎外『舞姫』) HNは”Excalibur(エクスカリバー)”


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