【徒然なるままに・・・】

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「きのふの是はけふの非なるわが瞬間の感触を、筆に写してたれにか見せん」(森鴎外『舞姫』) HNは”Excalibur(エクスカリバー)”

2009年 04月 25日 ( 1 )

以前ゆるりさんが薦めてくださったクリスティーの短編集です。
一応の主人公はサタースウェイトという初老の英国紳士で、芸術に関しては目利きとして知られ、上流階級にも通じ、社交界でも名の通った一角の人物なのですが、存在そのものは非常に地味という設定になっています。人間観察が趣味で、何故か人の本質を見抜いてしまうという特技を持っていて、相手も知らず知らずについ本音を語ってしまうという不思議な存在感を持った人なのです。直観力が優れている上に、云わば究極の聞き上手といったところでしょうか。

e0033570_2222525.jpgそんなサタースウェイト氏が偶然出会ったのが、ハーリ・クィンという謎の人物です。
物語上ではこのクィン氏が探偵役ということになるのでしょうが、兎に角このクィン氏、実に神出鬼没です。外見上ではごく普通の英国人と描写されているのですが、事件の現場にどこからともなくフラッと現れ、事件が解決すると風のように去ってしまいます。事件の現場と言っても”その場”に現れるとは限らず、サタースウェイト氏の前だけだったり、或いは事件の関係者の前にだけ姿を見せ、そのことを後でサタースウェイト氏が知る、といったこともあります。
また探偵役とは言ったものの、クィン氏が自ら行動して解決することはありません。全てを超越しているかのように振る舞う彼は、(主として)サタースウェイト氏に示唆を与えるだけ。後は人間観察には定評のあるサタースウェイト氏が、クィン氏と触れることで事件の真相に到達するという流れになっています。

この短編集に収められているのは「クィン氏登場」、「窓ガラスに映る影」、「<鈴と道化服>亭奇聞」、「空のしるし」、「クルピエの真情」、「海から来た男」、「闇の声」、「ヘレンの顔」、「死んだ道化役者(ハーリクィン)」、「翼の折れた鳥」、「世界の果て」、「道化師の小径」の12編。
作品によってはあたかも天使というか神の使徒、人ならざる者のように描かれるクィン氏。クリスティー本人もお気に入りだったというシリーズだそうで、何れの作品も不思議な読後感が味わえます。
この作品の後、サタースウェイト氏はかの名探偵エルキュール・ポワロと出会うのですが、その作品が『三幕の殺人』というわけですね。
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by odin2099 | 2009-04-25 22:23 | | Trackback | Comments(2)

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