
クライマックスからラストまで改変ならぬ”改悪”してしまった「ザ・ファーム/法律事務所」、原作の筋を追うだけで精一杯だった「ペリカン文書」に続いてのジョン・グリシャムのベストセラー作品の映画化だが、適度に映画的アレンジを施しながら巧みにまとめ上げている。
グリシャム自身もお気に入りと見えて、映画化第4弾となる処女作「評決のとき」制作にあたってはジョエル・シューマッカー監督以下、スタッフ陣も続投を求めたとか。
改変のポイントの一つは、シリーズキャラクターであるFBI長官デントン・ヴォイルズの出番をカットし(「ザ・ファーム/法律事務所」にも「ペリカン文書」にも登場している)、その役割をフォルトリッグ検事に一本化したこと。
これによって多少スケールダウンしてしまった感は否めないが、フォルトリッグを際立たせることに成功し、マークに立ちはだかる存在が明確になった。

【ひとこと】
主演はジュリア・ロバーツとデンゼル・ワシントン、脚本・監督はアラン・J・パクラ。

何せ命がけの逃避行中なのだから。
ジョン・グリシャムは執筆中から彼女のイメージが念頭にあったそうだが、劇中では役柄に比べて年上に見える。
ところが演じるダービー・ショウの年齢設定は24で、撮影時の彼女は25ぐらいだから実はピッタリ。
また色気とは無縁の映画ながら、何故か彼女の素敵なランジェリーショットがあったんだね、忘れてた。本筋とはあまり関係ないので、これは観客向けのサービスショットかもしれないが。
なぜ殺人事件は起きたのか、犯人の目的は何か、そしてそれは真相に近づいた者を消さなければならないほどの一大事なのか、といった部分があまりピンとこないのが難点ではあるのだが、サスペンス物としては十分に面白い。
主人公たちが徐々に真相に近づくというタイプではなく(最初に結論は出ていて、後はそれを裏付ける作業になる)、また誰が味方で誰が敵かではなく周囲すべてが敵という状況なので、謎解きのミステリー物としてはやや弱いものの、ボリュームのある原作をアラン・J・パクラは手堅くまとめている。
<過去記事>


ただこの作品に関しては若干尻切れトンボの嫌いもあり、キャラクターを使い切っていないなと感じる部分もあるのだが、もしかすると続編を想定しているのかも知れない。そう思わせるだけの含みを持たせて作品は幕を閉じている。
原作はジョン・グリシャムの『陪審評決』。ただし原作での設定はタバコ訴訟だったが、映画ではこれが銃規制問題に変えられている。
この改変が原作の味を損なうのではという危惧もあったが、見終わって全く違和感はなし。土台がしっかりとした物語は、少々のことでぐらついたりはしないものだ。
またもう一つの柱である陪審制度の問題、こちらは原作の要素をしっかりと掬い取っている。実際に陪審員への脅迫や買収が行われているかどうかはさておき、そう思わせるだけのリアリティは感じられた。日本でも裁判員制度が導入されれば、あながち他人事とは言っていられないだろう。

ただ毎度思うことだが、こういうディスカッション・ドラマだとやはり字幕スーパーは不利。日本語吹替の方がお勧めだ。
ところでこの作品、原作も映画も原題は”RUNAWAY JURY”。直訳すれば”逃げる陪審員”で、原告側と被告側で票の取り合いをすることを指しているのだろうけれど、陪審制度に馴染みの薄い日本で原作小説が『陪審評決』という邦題になったのはわからないでもない。
しかし映画版の『ニューオーリンズ・トライアル』という邦題は全く意味不明。確かに舞台となっているのはニューオーリンズだし、審判(トライアル)が行われるのもニューオーリンズ。しかしこれでは最早別物だ。
更にビデオ&DVD化に際して『ニューオーリンズ・トライアル/陪審評決』と改題。最初からそうしておけば、原作ファンにもアピール出来たものを・・・。

車に仕掛けられた爆弾によってキャラハンが殺され、自分の命が狙われていることを確信したダービーは必死の逃亡を図り、これを謎の集団が追い回す。周囲の誰も信用出来なくなった彼女は、敏腕記者のグレイ・グランサムにコンタクトを取り、彼に全てを賭ける決意を固めるのだった。
ジョン・グリシャムのベストセラーを映画化したものとしては2本目で、後半からラストに至るまで原作を改変しまくった前作『ザ・ファーム/法律事務所』(原作は『法律事務所』)に比べれば、監督のアラン・J・パクラは原作を手際よく整理して遥かに忠実にまとめあげている。もっとも判事殺害の目的などは、映画を観ているだけではあまりピンとこないだろうと思うが。原作を読んで、2~3回くらい見直した方が良いだろう。

ダービー・ショウを演じているジュリア・ロバーツは、今ひとつ知的な大学生には見えないのが難だが、グリシャム自身は端から彼女を念頭においていたんだとか。対するグランサム役のデンゼル・ワシントンは、これははまり役。サム・シェパードやジョン・リスゴーら脇役陣も好演で、それだけでも一見の価値はあるのでは?
なお『ザ・ファーム』と本作には共通するキャラクターがいるが、製作会社が違うために出番が割愛されたり、別キャストになっているのがやや残念(次作『依頼人』に至っては、まるごと削除されてしまっている)。

ジョン・グリシャムのデビュー作は『評決のとき』だがサッパリ売れず、2作目のこの作品からベストセラー作家の仲間入りをすることになった。映画化されたのもこれが最初である。
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野心家の若き弁護士、という主人公のキャラクターは正にトム・クルーズに適役で原作のイメージ通りなのだが、残念ながら映画化にあたって大きくキャラクターが変貌してしまった。(「しねま宝島」からの引用)
クライマックスでミッチは、マフィア、FBI双方から追われる事になり、それに完全と立ち向かって遂には両方とも出し抜く、というコン・ゲームの爽快感があるのが原作の筋なのだが、映画ではその件がバッサリとカットされ、安易で落ち着いた生活を求めるかのごとく小市民的な選択をして終わる、というなんとも拍子抜けする結末になってしまっているのだ。
原作をそのまま映画に置き換えるのが必ずしも良いとは思わないが、これによってミッチは「精悍で強かな奴」から「保守的な安定思考の男」になってしまった。
自分勝手で独り善がりなキャラクターこそトム・クルーズの真骨頂ではないのか?原作者も気に入らなかった(らしい)この改悪にも拘らず、『ジュラシック・パーク』、『ラスト・アクション・ヒーロー』といった並居る強敵を相手に大健闘をみせたのは不幸中の幸いか?
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長いお話だけに省略や改変は常ではあるのだけれど、一番面白い部分をソックリ入れ替えてしまうのはどうにも納得いかない。
ジーン・ハックマン演じる上司のキャラクターを膨らませたり、ジーン・トリプルホーン扮するミッチの妻アビーを大筋に絡ませたりする前に、もっときちんと押えておくべきポイントがあったんじゃなかろうか、と思う。
こずるく立ち回って自分を正当化するミッチはミッチじゃない。何度見てもその点は不満だ。

『裏稼業』同様にアカデミー出版の超訳として刊行されたジョン・グリシャム作品の2作目。ハードカバーで発売されたときは『召喚状』という書名だったが、ソフトカバー版では何故か表題のように改められた。
”超訳”故の読みやすさか、それとも元々持っている”ジェット・コースター・ノベル”、”グリシャム・マジック”故かはわからないが、上下巻を一気に読ませる勢いは健在。しかし『裏稼業』もそうだったけれども、読んでいてどうもこれまでのグリシャムらしさを感じない。
そもそもストーリーがそうなっているのか、それとも”超訳”のスタイルがグリシャム作品と合わないのか。この作品も、結局は金を巡っての汚い争いということで落ち着いてしまい、ラストも何だか釈然としないものだった。

かつては『法律事務所』、『ペリカン文書』、『依頼人』の3作品に共通する人物を出したり、『処刑室』では『評決のとき』の事件に言及させたりしたグリシャムのこと、ありえないことではないと思うが。